sinarのブログ

映画製作

あるホームレスの話

あるホームレスの話 ホープマン
映画脚本 ホープマン◆ by Takemoto 
*注意 著作者に許可無くこの作品を無断で複製、転載、上演、
放送などをすることは著作権侵害にあたり法律によって禁じられています。
この作品はフィクションであり、実在の人物、団体
事件などとは一切関係ありません。

映画脚本 ホープマン・登場人物

山崎 悟・失業し、妻と離婚。再就職もできず

    ホームレスになった男。息子がいる。

    ホームレス歴1年。元営業58才

佐川淳也・元役者、演出家。ホームレス歴半年55才

島中 源・元ヤクザ2度結婚し離婚。強盗傷害致死

    服役6年。ホームレス歴2年63才

吉原敏雄・元料理人。妻と死別ホームレス歴2年65才

寺田光貴・元経理。不正経理で逮捕。保釈後ホームレス

    家族無し。ホームレス歴1年。48才

天宮忠信・・山奥の寺、西導寺の住職。70代

橘 創二・・西導寺にいる天宮の弟子。35才

赤柳弓子・・山崎の元妻。53才

浅倉智彦・・山崎の昔の仕事関係者。48才。

小西敦彦・・本屋の店長。山崎の元仕事関係者50才

高木周平・・街中の寺の住職。53才。

伊藤勝江・・教会関係者。65才。

青木 浩・・ホームレス。61才。など

映画脚本・ホープマン◆ 1

◎街の風景・東京・晴れ・2000年

青空が広がり、太陽が輝いている。

穏やかな空が広がっている。

山崎ナレーション 「・・希望とは、何なのだろう?」

 ◎ひと気の無い道端の隅

ホームレスの山崎が地味な格好で道端に寝ている。

 ◎駅近くの道・夕方

山崎、疲れた感じで道を歩いている。

踏み切りにさしかかり、鳴っている踏切の信号を

ボーっと見る。

電車が通過する。

遮断機の棒が上がって、山崎、踏み切りを渡る。

色々な人とすれ違う。 

山崎そのまま歩き、座れる場所を見つけて座る。

ボーっと人が通るのを眺めていると、一人の男が

山崎を遠目に見ている。

男、山崎の昔の仕事関係者、浅倉智彦。

浅倉が山崎に近寄って、声をかける。

浅倉「・・・あのー、もしかして、山崎さん

    じゃないですか?」

山崎、声をかけてきた男を見る。

浅倉「山崎さん・ですよねぇ。覚えてませんか?

     浅倉です。友田企画の」

山崎、思い出して

山崎「・・ああ、浅倉さんですか。」

浅倉「いやぁ、お久しぶりです。もう、何年に

  なりますかねぇ?5年ぶりかなぁ。

  ・・その節はどうも。」

山崎、会釈する。

浅倉「いやぁこんな所でお会いするとは・・。

  今は、どうされてるんですか?」

山崎「・・リストラされましてねぇ。」

浅倉「・・あぁ、そうなんですか。それは・・

  大変ですねぇ。

 ・あの、私これから出張なんですが、あの・・」

浅倉、財布から壱万円を出して

浅倉「これ、よかったらどうぞ。前にご馳走になって

お世話になりましたから。本当はご一緒に食事

でもしたいんですが、時間が無くて、そういう

わけにもいかないんで・・。」

山崎「・・いや、いいです。そんな、もらえません」

浅倉「いやいや、ほんとにその節はお世話になった

  んで、遠慮しないで下さい」

浅倉、山崎に壱万円を押しつけて

浅倉「じゃ、もう時間が無いので失礼します。」

浅倉、その場を去りながら

浅倉「お体に気をつけて、元気出してください。じゃ。」

浅倉、駅の方に去って行く。   

山崎、手に持たされた壱万円を見ながら、つぶやく。

山崎「・・・憐れみを受けるようになったか・・。」

山崎、やるせないようにため息をつく。

 ◎地下街の隅・夜

人通りはない。山崎、道の端の方に座っている。

そこにホームレスの吉原敏雄がビール片手に歩きながら

山崎の方に近づいて来て声をかける。

吉原「・・おい、お前さん。名前、何てゆーんだ?」

山崎、吉原が自分に声をかけたのに気付いて、吉原を見て

山崎「・・山崎です。」

吉原「ビール飲むか?」

山崎「・・いいです。」

吉原「飲めねーのか?」

山崎「・・いえ。」

吉原「じゃあ、飲みなよ。」

吉原、ポケットから缶ビールを出し蓋を開けて

吉原「ほら、どうぞ。」

吉原、ビールを山崎に渡して、横に座る。

吉原「はい、乾杯。」

吉原、山崎の缶ビールに乾杯して、ビールを飲む。

山崎、戸惑いながらもビールに少し口をつける。

吉原「お前さんは、帰る家ないの?」

山崎「・・まあ。」

吉原「どれぐらい?」

山崎「1年くらいですが。」

吉原「そうかい。・・俺の方が先輩だな。

俺はもう2年だからな。」

山崎「・・・・失業、したんですか?」

吉原「いやぁ失業というか、自分で辞めたんだな・・。

  やる気が失せちまって、店たたんで。

・・俺、元料理人なんだよ。」

山崎「へぇ、どういう料理を?」

吉原「日本料理屋やってたんだよ。

これでも昔は、年収一千万近く儲けた時も

あったんだけどね・・。

奥さんが死んじゃってから、ダメよ。

・・やる気も何にも無くしちゃって。

・・死のうと思ったけど、死に切れず。」

山崎「・・・。」

吉原「あんたは? 奥さん、いたの?」

山崎「・・まあ。離婚しましたけど。」

吉原「そうかい。・・子供は?」

山崎「・・いましたけど。

・・今は、独立して北海道に・・。」

吉原「へー北海道ねぇ・・北海道はでっかいどーってね」

吉原、山崎に笑いかけるが

山崎「・・・。」

吉原「あんた、ちょっとは笑いなさいよ。」

山崎「すみません。・・・お名前は?」

吉原「ああ、名乗るほどのもんじゃないけど、

吉原敏雄ってゆーんだ。」

山崎「吉原さんですか。どうも、ごちそうさまです」

 ◎公園・昼前

人通りが少しある。吉原、山崎を連れて公園に来る。

公園の木陰のベンチで寝ている男、島中源がいる。

吉原が島中に声をかける。

吉原「島ちゃん、もう昼だぜ。寝てんのかい?」

島中、目を開けて

島中「・・ああ、吉原さんかい。」

島中、起き上がって、山崎を見て

島中「新顔?」

吉原「ああ、山崎さんだよ。」

吉原、山崎に島中を紹介する。

吉原「この人、島ちゃん。ケンカ、強いんだって」

山崎「どうも。山崎です。」

島中「どうも。 ・・どれくらいなの?」

山崎「? ・・ああ1年です。」

島中「へー。」

島中、あくびをして

島中「・・腹へった。」

吉原「・・食べてないの?」

島中「ああ。この間の炊き出しちょっと食って、

それから食べてないな。」

吉原「歩いてないの?」

島中「腹、へるからな。どっかやってる?」

吉原「この間、教会でやってたよ。」

島中「ああ、あそこまで行くのがおっくうだからな」

山崎「・・・あの、よかったらこれで。」

山崎、ポケットから壱万円を出す。島中、それを見て

島中「あんた、金持ちじゃん。働いてんの?」

山崎「いいえ、昨日たまたま知り合いに会ったら

恵んでもらいまして・・。」

島中「へー、いい知り合いだねぇ。」

吉原「山崎さん、そういうのはとっといた方が

  いいんじゃないの?」

山崎「いいえ、どうせ使わないつもりでしたから・・」

島中「・・おごってくれるの?」

山崎「ええ。これで何か食べましょう。」

 

★山崎と吉原、島中、買ってきた物を公園で三人、

楽しそうに食べる。

 

◎川沿いの道

山崎が歩いていると、苦しそうに顔をゆがめたホームレス

らしき男、佐川が道に倒れこんでいる。

遠巻きに人が通っていく。山崎、佐川に声をかける。

山崎「・・大丈夫ですか?」

佐川、山崎を見るが何も言わないで、うなっている。

山崎「・・救急車呼びましょうか?」

佐川「・・いい。・・水・・くれ。」

山崎「水ですか?」

山崎、あたりを見回して、自動販売機を見つけて

山崎「何か飲み物でいいですか?」

佐川、うなずく。

山崎「ちょっと待ってくださいね。」

山崎、自動販売機に飲み物を買いに行って、

飲み物を持って戻ってくる。

山崎「こういうのしか、なかったんですけど・・。」

山崎、スポーツドリンクを佐川に渡す。

佐川、起き上がって飲み物を飲む。

山崎「大丈夫ですか。病院に行かなくて?」

佐川「・・病院に行くんだったら、死んだ方がいい

んです。・・・すみません。これ。」

佐川、飲んだ飲み物を上げて

山崎「いいえ。・・あの、食事の方はされてないんですか?」

佐川、力なくうなずく。

山崎、ポケットから5千円を出して

山崎「・・これ、よかったらどうぞ。」

佐川「・・・でも。」

山崎「よければ、なんで。」

佐川「・・・いいんですか?」

山崎「はい。」

佐川「・・・。」

佐川、5千円を受け取って

佐川「・・すみません。」

山崎「じゃ、大丈夫ですか?」

佐川「はい。」

山崎「じゃ、失礼します。」

山崎、去っていく。佐川、去っていく山崎に、力なく

佐川「・あ、ありがとうございましたぁ。」

 ◎ひと気の無い場所の植え込み沿い

ホームレスの寺田光貴が植え込み沿いの側で寝ている。

山崎、寺田を遠くの方から見ている。

山崎、ポケットにあるお金を出して、見る。

3千円と小銭が少しある。

山崎、寺田に近付いて、様子を見ている。

寺田、人の気配に気付いて、近くにいた山崎を

いぶかしげに見る。

寺田、少しイラついた感じで

寺田「・・何、見てんだよ。ジジイ。

近付くんじゃねえよ。どっかいけよ!」

山崎「・・・あの、もし良かったら、これどうぞ。」

山崎、寺田に3千円を差し出す。

寺田、それを見て無表情に起き上がり

寺田「・・あんた、何様なんだよ? 

人に金渡して、いい人ぶる気かよ。」

山崎「いえ、そういうんじゃないんです。

  ・・私、いらないんで・・良ければ使って頂け

  ればと思って・・。」

寺田、鼻で笑って

寺田 「じゃ、もらってやるよ。」

寺田、山崎から3千円を受け取って、嫌な感じの

目つきで山崎を見ながら、その3千円を破って捨てる。 

寺田、そのまま、また横になる。

山崎、少し呆気に取られながら

山崎「・・気に障ったら、すみません。」

寺田、無視する。

山崎「・・・。」

山崎、その場を去る。

◎街中・夕方

山崎、街をどこをともなく歩きながら上を見回す。

高いビルやマンションが見える。独り言をつぶやく。

山崎 「・・そろそろ、潮時だな。」

山崎、ひと気の無い建物に目をつける。

◎ひと気の無い建物の屋上・夕方

ちょうど夕焼けがきれいに見える。

山崎、屋上に立って景色を眺めている。

山崎 「・・・・これで、見納めか。」

夕焼けが明るさを増し街並みがオレンジ色に染まる。

山崎、屋上のへりに身を乗り出し、夕焼けに

染まった街並みを見て深呼吸をする。

山崎の目に涙があふれてくる。

山崎その時、死んで何になるんだ今まで何をしてきた

のかと思い、生きる決意をする。

 

あるホームレスの話・ホープマン2に続く。