sinarのブログ

映画製作

あるホームレスの話5

あるホームレスの話・ホープマン5

◆映画脚本 ホープマン◆ by Takemoto

あるホームレスの話 ホープマン4からの続き

◆映画脚本・ホープマン◆

◎西導寺の本堂

山崎、本堂で何か考え事をしている。

◎西導寺の廊下

山崎、廊下を掃除している。 

山崎、一休みして、庭をボーっと眺めている。

そこに天宮がやって来て、山崎に

天宮「山崎さん。今日は、私と幼稚園に行きませんか?」

山崎「・・幼稚園ですか。」

天宮「ええ。子供達にお話をしに行くんです。」

山崎「私も一緒に行っていいんですか?」

天宮「ええ。出かける支度をしてきてください。」

山崎「はい。」

◎幼稚園・体育館

子供達が30人前後集まって座っている。

天宮が子供達の前に立って話をする。

山崎、離れた後ろの方で立って見ている。

天宮「皆さん、こんにちは。」

子供「こんにちはー。」

天宮「元気が良くていいですね。元気が一番です。

  今日はね、命についてお話をしようと思います。

       命って、わかりますか?

  命っていうのはね、皆、生きてますよね。

      生まれてきて、生きているのは、命があるから

      なんです。皆、心臓が動いてるでしょう? 

  胸に手を当てると心臓が動いてるの、わかるかな?

      ドキドキしてるのね。

  自分の命をつないだ昔の人をご先祖様と言います。

  皆にご先祖様がいたから、今、皆は命があるんです。

わかりますか?お父さん、お母さんがいなかったら、

皆さん、生まれてきてないでしょ。

  お父さんお母さんのお父さんお母さんはおじいちゃん

おばあちゃん、その前はひいおじいちゃん、

ひいおばあちゃん、その前はひいひいおじいちゃんと

  ずーっと命をつないでくれたご先祖様がいて、

今、皆は生きてるんです。

  皆さん、お腹がへったりするでしょ。

生きているからお腹がへるんですね。

  人間は色んな物を食べますね。

好きな食べ物、何ですか?」

子供達「やきにくー。」「いちご」「おすしー」

天宮「そうですね。みんな、おいしいですね。

  食べ物は、みんな、命があるものです。

お肉でも、お魚でも野菜も果物もそうですね。

虫さんもお花も、みんな命があります。

  お花はね、種があります。種から芽が出て、

大きくなって花を咲かせます。

  そして、花が散って、また種を残しますね。

  命のあるものは、みんな生きようとしています。

  でも、生きていく為に色んなものを犠牲に

して生きています。

  人間は、他の生き物の命を犠牲にして生きています。

だから、その犠牲を無駄にしないようにしないと

いけません。

  無駄にしないようにするには、命を全うしないと

いけません。

  命を全うするというのは、命がある限り、生きる

      という事です。

  わかりますか? 

皆、年をとっていくと私みたいにおじいさんや

おばあさんになっていきます。

  そして、死んでいきます。死ぬっていうのは、

命がなくなる事です。心臓もドキドキしません。

息も吸わないし、吐くこともしません。

  お腹もすきません。別に怖い事ではありません。

死んでも魂はあの世にいって、極楽浄土で暮らします。

極楽浄土っていうのは天国とも言うし、

楽しい幸せな所ね、

悪い事をしたら地獄に落ちると言うけど、

反省したら地獄には落ちません。

  命あるものはすべて、いつか死にます。

だからこそ、生きるという事を大事にしないと

いけません。

みなさん、命を大切にしてください。

人も動物も虫もお花の命も大事です。

命を粗末にしてはいけません。

     わかりましたか?」

子供達「はーい。」

山崎、天宮の話を後ろで真面目に聞いて立っている。

 

◎幼稚園からの帰り・西導寺の門前・午後

山崎、天宮と話をしながら歩く。

山崎「今日は、いい話を聞かせていただきました」

天宮「少し、気分転換にでもなりましたか。」

山崎「はい。身につまされるものがあります・・」

天宮「・・仏教でもキリスト教でも自殺という

のは、罪とされているんですよ。

  罪の中でも重くて、ひどい地獄に落ちると

言われてるのね。

  なぜだかわかりますか?」

山崎「・・さあ?」

天宮「さっきも話したとおり、命は先祖がつないで

くれたものだし、命をつないでいくまでに

犠牲は一杯払われているわけでしょ。

謙虚にとらえれば。虫一匹の犠牲でもね。

  人殺しは、人の命を犠牲にしてしまうけれども

その人がその人生を命がある限り生きるのであれば

ある種の報いは受けたといえるでしょう。

  でも自殺の場合はそうではなく、命への感謝も無く

先祖に対しても命を与え、犠牲を払って産んだ親や

育てた者に対しても、自分が産まれ生きていくのに

払われた犠牲にも報いようともしないで、命を

粗末に捨てるという行為は結局、虫一匹の犠牲にも

報いない生きとし生けるものへの侮辱行為になる

んですね。

虫でも何でも自分の命を犠牲にされたのに報いて

もらえず、犠牲が無駄にされては、犠牲になった

価値も出ないでしょうが、報いてくれるなら

犠牲にも価値は出ますからね。

自分がこの世に生まれてきた以上、犠牲に報いる

責任がありますから、それから逃げれば

責任放棄になるし、自分と命を与えた全ての犠牲に

価値が無いものと裁く自殺は、自分に命を与えたもの

すべてに対する最大の侮辱行為なので罪が重いと

されてるんです。

神や先祖、親、生きとし生けるものにツバをはく

行為ですから。

自分の命は自分だけのものでは無いんです。

他の者から与えられたものですから。

山崎さん、自殺をとどまって正解でしたよ。」

山崎「・・そうですね。反省して、頑張ります。」    

 

それから半年後・2001年

◎西導寺・天宮の部屋

天宮、机に向かって何か書いている。

山崎が部屋の前に来て

山崎「失礼します。山崎です。」

天宮、返事をする。

天宮「はい。どうぞ。」

山崎、戸を開けて礼をして、部屋に入って座る。

天宮「ここでの生活は、どうですか?」

山崎「はい。本当にここに置いていただいて、

        有り難く思っています。

  何から何まで、お世話になりっぱなしで・・」

天宮「答えは、見つかりましたか?」

山崎「・・はい。・・正直、まだ、迷いもあります。

でも、もうここを出ようと思います」

天宮「・・そうですか。あなたの望みが叶う

ように、健闘を祈ります。」

山崎「ありがとうございました。」

天宮「・・どこか、行くあてはあるんですか?」

山崎「・・いいえ。街で、どこか働ける所を

探そうと思っています。」

天宮「・・もし、困った事があったら、

ここを訪ねるといい。」

天宮、山崎に紙を渡す。

天宮「そこに、私の知り合いがいます。

何か助けになるでしょう。」

山崎「・・でも、」

天宮「心配はしなくてもよろしい。

少しは役に立つだろうから。」

天宮、微笑んで

天宮「それと、」

天宮、封筒を出して山崎に渡す。

天宮「これを持っていきなさい。」

山崎「・・何でしょうか?」

天宮「たいした額ではないが、選別にね。」

山崎「でも、そんな、頂けないです。

こちらがお世話になったのに、お金なんて」

天宮「君はちゃんと寺で働いてくれましたし、

普通の所で働けば、もっとあげないと

  いけないくらいですよ。

気にせず、貰っておいてください。」

山崎「・・・本当に、すみません。

ありがとうございます。」

◎西導寺・庭先

山崎、少ない荷物を持って、感慨深げに寺を見つめる。

◎西導寺・門前

天宮、橘その他のお坊さんが、旅立つ山崎を見送る。

山崎、天宮と橘と握手をする。

山崎「じゃ、お元気で。」

天宮「頑張ってきなさい。」

山崎「はい。」

橘 「うまくいくよう祈っています。お元気で。」

山崎「ありがとう。頑張るよ。

  皆さん、ありがとうございました。

お世話になりました。

・・それでは、失礼します」

山崎、礼をして、寺を去っていく。

*映画脚本ホープマン後編に続く。