sinarのブログ

映画製作

あるホームレスの話4

あるホームレスの話 ホープマン4

◆映画脚本 ホープマン◆ by Takemoto

*注意 著作者に許可無くこの作品を無断で複製、転載

  上演、放送などをすることは著作権侵害にあたり

  法律によって禁じられています。

この作品はフィクションであり、実在の人物、団体

事件などとは一切関係ありません。

あるホームレスの話・ホープマン3からの続き

◆映画脚本・ホープマン◆

◎西導寺・その周辺

寺の生活に慣れた山崎が座禅を組んだり山道を

歩いたり、托鉢について行ったりする。

◎西導寺・裏山の庭・見晴らしのいい高台・夕方

山崎、一人で庭をほうきで掃いている。

そこに橘がやって来て山崎に声をかける。

橘 「・・どうですか?」

山崎「ああ、橘さん。どうも。」

橘 「ここでの生活にも、だいぶ慣れましたか?」

山崎「はい。おかげさまで。」

橘 「・・ここ、景色がいいでしょ。」

山崎、風景を眺めて

山崎「そうですね・・。

  東京では見られない景色ですね。」

橘 「・・私も昔、東京に住んでたんですよ。」

山崎「へぇ、そうなんですか。」

橘 「座りませんか?」

山崎「・・はい。」

二人、並んで座れる所に座る。

橘 「・・私、昔は、すごい不良だったんですよ」

山崎「・・橘さんが不良ですか? 

  ・・想像できないですね。」

橘 「そうでしょう。私も鏡見ると思います。

  ・・中学の時からひどくてね。

  自分の気にくわない事があったら、人に

  当たり散らして・・。

  16の時にね、私、人、殺しちゃったんですよ。」

山崎「・・・。」

橘 「・・驚いたでしょ。」

山崎「・・・。」

橘 「・・・その時は、もう、どうでもよかった

  んですね。自分も他の人も。自暴自棄になってて。

  ・・それで、少年院に入れられまして、その時、

  天宮さんに会ったんですよ。

  天宮さんに会ってなかったら、私、今頃死んでるか

  刑務所でしょうね・・。

  自分でも悪い事をしたのは、わかってたんですよ。

  でも、もうやってしまった事は取り返しがつかな

  いし、謝ってすむ話でも無いですしね・・。

  それで、もうどうにでもしてくれればいいやって、

  開き直ってたんですよね・・。

  クズ呼ばわりされてましたから。クズならクズと

  して生きてやらあ、みたいなね。

  ・・天宮さんにね『君は幸せか?』って聞かれた

  んですよ。

  もちろん、そんなわけ無いじゃないですか。

  まあ、バカバカしくて答えなかったんですよ。

  そしたら今度は『苦しいか?』って聞くんですよ。

  何を言ってるんだ、このじいさんは、と思ってね。

  で、黙ってたら、『君が幸せであるんだったら、

  なぜこんな所にいるんだろう? ・・世間から

  隔離されて、疎まれ、裁かれる様な所に。

  自分を愛しているなら、なぜ、自分を苦しめる

  状況に陥らせたんだろう?

  もっと幸せで自由な世界があるのに』ってね・・。

  『君が苦しんでいるなら、君は自分を愛せなくて、

  憎んでいるんだろう。自分を許せないんだろう。

  そうじゃないかね?』と言われてね・・。

  私、自分が嫌いで憎くてたまらなかったんですよ。

  ・・どうせ、自分みたいな者はどうしようもない

  奴だと思って、死ぬ勇気は無いのに、

  人を傷つける事で自分を価値の無い者にしてしまおう

  みたいなね、・・・自虐的な方法なんですよね。

  ・・人を巻き込んでね。」

橘、一息おいて

橘 「・・・で、ただ苦しんでるだけではしょうが

  ないし、死ぬのは簡単ですが、死んでも犠牲が

  無駄になりますしね・・。

  天宮さんに『自分を苦しめるのはやめて、自分を

  許しなさい。そして犠牲に報いるよう生きなさい』

  って言われて・・

  はじめて、自分が生きていく希望を見つけた

  ような気がしました。

  ・・それまでは、どうでもよかったんですけど・・。

  で、天宮さんのようになりたいと思いました。

  それで、ここに来たんです。 

  ・・・長い話だったでしょ?」

山崎、神妙な顔つきで話を聞いていた。

橘 「・・・山崎さんは?」

山崎「・・・私は、すべて失いました。自業自得です。

  何もありません・・。体だけです。

  その体だけでも何かの役に立たせようと思って。

  ・・どうやって、役に立てるのか。

  ・・自分に出来る事は何か・・考え中です。

  ・・自分には何も無いのに、どうやって行動

  すればいいのかわかりません。」

橘 「・・・いずれ、わかりますよ。望みは叶います。

  私達に必要なものは、すべて与えられていますから」

橘、山崎に微笑む

*あるホームレスの話5に続く。